トップページ >御前崎つゆひかり >御前崎 「つゆひかり」の始まり
当時の一煎茶パック(8〜10g入りの試供品)。 浜岡砂丘の図柄から「煮干し」と間違えられました。
平成4年11月11日、浜岡茶の生産と消費の拡大を図り、茶業の安定的発展を期することを目的に、農家や茶商、JA、商工会、行政等で構成する「浜岡町茶業振興協議会」が新たに設立されました。この協議会には、協議会委員のほかに事業を円滑に進めるための幹事を置き幹事会が組織されました。
当時の協議会は、パンフレットやのぼり旗の作成、広告看板の設置のほか、各種イベントへの出店や、茶娘による呈茶などを行っていました。中でも男子プロゴルフトーナメントの開幕戦「静岡オープンゴルフ」では、優勝者への副賞として茶壷とともに浜岡茶一年分を贈呈していました。また千葉県の幕張メッセでは、来場者へのアンケート調査やお茶パックのプレゼントなども行っていました。
しかしこれらの催しは、当然のことながら係る経費に比べて効果が少なく、ましてや販売の拡大や、あるいはそのための販売戦略とは程遠く、行く先に懸念を抱かざるを得ませんでした。時代はおりしも生活スタイルの変化とともに食生活も変わり、急須のない家庭が増加するなど、それらはアンケート調査においても明確に現れていました。これはお茶離れが進んでいることを如実に表し、販売の伸び悩みや価格の低迷を裏付けるものとなっていました。
当時変更した新しい一煎茶パック。「浜岡町ってどこ?」の問い合わせに裏に地図を載せました。
そのような中、平成13年度には図らずも同じような考えの方々が幹事になられ、皆がお茶の現状を憂うとともにその未来に危機感を覚え、これを払拭するための何かしらの打開策や起爆剤などを求めて熱い思いを語り合いましたが、現状を切り開く具体的な取り組みについては先が見えないまま、暗中模索の会議が続きました。
平成13年9月7日に開催された「平成13年度第3回幹事会」の終盤において、委員の多数が現在の品種「やぶきた」での将来にわたっての一辺倒な取り組みには危惧の念を抱いていることが確認され、次回の会議では別の品種について検討する旨の決定がなされました。
当時の広告。畑地農業用水タンク(ファームポンド)にペイントしました。
平成13年12月14日に開催された第4回の幹事会においては、販売が低迷する現状を打開し、浜岡町の茶業が生き残るためには他の市町村との差別化が必要であり、そのためには新たな品種へのいち早い取り組みが必須であると結論付けられ、新品種への取り組みに向けての勉強会と、お茶の飲み比べを行うことが決定しました。
当時の広告。浜岡、静岡間の路線バスに掲示していました。
年が明けた平成14年1月28日に第5回の幹事会を開催し、静岡県茶業試験場主任研究員の小蜥テ勤さんを講師に招き、品種ごとの摘採期や収穫量、耐寒性、対病性、品質等の違いを勉強しました。
続いて幹事でJA遠州夢咲(えんしゅうゆめさき)浜岡茶業委員会製茶業部会長の植田裕行さん、同JAの職員赤堀巌さん及び河原崎繁さんが用意してくれた「めいりょく」「さえみどり」「おくみどり」「おくひかり」「山の息吹」「香駿」「ふうしゅん」「あさつゆ」「つゆひかり(仮称)」の9品種のお茶の外観や香気を比較するとともに、それぞれを湯呑に注いで香気、水色(すいしょく)、滋味(じみ:うまい味わい、深い味わい)を確認しました。
また、先に勉強した摘採時期や収穫量とあわせて総合的な比較審査を行い、その結果新たに取り組む新品種の候補として「つゆひかり(仮称)」が浮上しました。
このとき、日常の生活で「やぶきた」を飲んでいた私の印象としては、「つゆひかり(仮称)」は渋味が少なく何か物足りない感じだったことを覚えています。しかし、逆にこれが狙い目で、販路に「お茶に親しみの少ない方、女性や子供」を対象にして「色が良く、まろやかな味」をコンセプトに今後進めることになりました。
当時の広告宣伝活動。第30回静岡オープンゴルフトーナメントの表彰式で、優勝した溝口英二プロに浜岡茶を贈呈しました。茶娘の河原崎さと子さんと本多礼奈さん。(左はJAのいちご娘さん)
当時この「つゆひかり」の名は仮称で、正式な品種名は70-30-302、両親名(来歴)は「静7132」と「あさつゆ」の交配、特徴は在来種の「やぶきた」よりも2日程度早いやや早生種で、鮮やかな緑色の水色が特徴でした。
平成13年4月に静岡県の奨励品種に指定されたばかりで、まだ種苗法の品種登録の審査(出願番号年月日:第12775号、平成12年9月14日)が行われていました。したがって品種の登録年や登録番号がありませんでした。
トーナメント会場の静岡カントリー浜岡コースに飾られた贈呈用の茶壷と浜岡茶一年分。(100g缶/箱×99箱:9g/回×3回/日×365日)
その後、新品種「つゆひかり」への取り組みを現実のものとするべく、平成14年の3月4日に第6回の幹事会を開き、JA静岡経済連茶業課長の山下哲由さんを講師に迎えて「他地区の取り組み」を演題にご講演をいただくとともに、前回に引き続き県茶業試験場主任研究員の小蜥テ勤さんに「つゆひかり」への取り組みにあたってのご指導をいただきました。
この幹事会では、町が「つゆひかり」の苗を用意して、農家がそれを栽培し、茶商が買い取り販売するという、茶業の現状に危機感を持った者同士が「三位一体で取り組む」と総論づけられましたが、現実の問題として、町は新品種の苗を本当に用意できるのか、農家は茶商に買ってもらえるのか、茶商は販売できるのか、と不安の声も当然ありました。とりわけ農家としては、茶園の改植後は苗木が成木に成長して収穫できるまでの4〜5年の間は収入にならないために改植への不安は否めず、加えて4年後、5年後の将来に本当に買ってもらえるのかと、その不安はいかばかりか計り知れないものだったと思います。
第31回大会優勝の室田淳プロと茶娘の坂本彩子さん、岡田紀子さん。(左はJAのいちご娘さん)
しかしながら農家に「つゆひかり」を育ててもらわなければ前に出ることができません。このとき副代表幹事で浜岡町茶商組合の中山啓司さん(株式会社中山商店)や、幹事の赤堀譲治さん(株式会社赤堀商店)から「必ず買う。やぶきたよりも高く買う。だからみんなで前に進もう」との発言があり、それによって「よし、皆でやろう」と新品種への取り組みが決断されました。
当時、千葉県の幕張メッセにおいて浜岡茶のPRとアンケート調査を実施しました。
年度が替わった平成14年5月10日、新年度第1回の幹事会が開催され「つゆひかり」の取り組みについて、総会への議案の提出が決定し、同月15日に開催された「平成14年度浜岡町茶業振興協議会総会(浜岡町長本間義明会長)」において「つゆひかり」への取り組みに係る事業計画と予算が正式に決定し、具体的には静岡県との間での県奨励品種「つゆひかり」の許諾契約の締結、及び「つゆひかり」の苗木の育成を実施することになりました。
アンケート用紙への記入をお願いする幹事と茶娘のみなさん。
正式決定を受け、早速静岡県茶業試験場総務課主任の関清信さんを訪ね、許諾契約等の一連の手続きについてご指導をいただきました。許諾契約とは、「つゆひかり」の販売や、販売を目的とした広告、生産、収穫物の生産、加工、販売の行為を県知事に認めてもらうこと(静岡県登録品種種苗許諾運営要領)で、早い話が「これをしないと、お茶を作っても売ることができない」ということです。
この時点では「とりあえず苗木の育成」から始め、直ぐに販売できるものではないため、今後の許諾契約の締結の確約を条件に、あらかじめ「穂」を分けていただけることになりました。
回収したアンケート用紙(4,888枚)の整理の様子。
そこで平成14年6月25日に第2回の幹事会を招集し、翌26日に茶業試験場のほ場(榛原町)に「つゆひかり」の穂の採取に出向き、1,000本を分けていただきました。採取した穂は、代表幹事でJA遠州夢咲浜岡茶業委員会製茶農協部会長の河原ア功さんの手によりペーパーポット等の「挿し穂」になりました。浜岡町で「つゆひかり」が産声を上げた期待と喜びの瞬間でした。
平成14年6月、浜岡町で第一号の「つゆひかり」。写真は挿し穂ポットを作ってくれた河原ア功さん。
その後、許諾契約の手続きを進めていましたが、「つゆひかり」はなかなか品種登録がなされず「登録」品種としての許諾申請ができないため、年がかわった平成15年3月4日、石川嘉延静岡県知事あてに「出願」品種での種苗許諾の申請書を作成し、県茶業試験場の岸本浩志場長のところに契約締結のお願いにうかがいました。
静岡県から譲っていただいた浜岡町で最初の「つゆひかり」の穂数は1,000本でした。
提出した許諾申請書を県が審査しているまさにその時の3月17日付けで品種登録(登録番号第11103号)がなされたため、その後の申請書の審査の通過とあわせて、平成15年4月1日「つゆひかり」の登録品種種苗許諾契約が締結され、平成15年4月1日から平成18年3月31日までの3年間の許諾を得ました。
浜岡茶「つゆひかり」の正式な誕生です。
苗木の育成事業で第一号の「つゆひかりポット」
それからちょうど一年後の平成16年4月1日、小笠郡浜岡町と榛原郡御前崎町が合併して御前崎市になり、協議会の名前も「御前崎市茶業振興協議会」に変わりました。また許諾契約についても随時期間を更新しています。
ペーパーポットの「挿し穂」はその後ほ場に定植され、現在は立派な茶園になっています。そこは「つゆひかり初摘みイベント」の会場にもなっています。茶園の横を車で通る度に当時の熱い語らいが思い出されます。
平成24年4月1日
御前崎市茶業振興協議会事務局長小川日出海(御前崎市農林水産課長)